リレー小説用ブログ
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二つ目を見つけたのは比較的使用率の低い、階段の踊り場だった。
職員室がある棟は、HR棟よりも古い。HR棟の西にある旧校舎とほぼ同じ年に作られた年代物だが、職員室や事務室の存在があるので、なけなしの管理が続けられ、何とか威厳を保っているようなものだった。
HR棟のクリーム色の壁とちがい、職員室棟はコンクリートの壁面が向き出して、夏場でも人を遠ざける空気をかもし出している。誰もが通りたくない空間、それが職員室棟の階段なのだ。
その階段を、光太はプリント片手に上がっていた。
(先生も今更だよなあ……進路選択って春の話じゃん)
中途半端な担任に再提出を求められたプリントを見ながら、薄暗い階段でため息をつく。踊り場を踏み、手すりに手をかけた時だった。
足の裏に本日二度目の感触。
「ん?」
再び、恐る恐る足を上げる。灰色の床にうすく影を作って居たのは、金に近い黄色の石だった。拾い上げた石を窓にかざしてみると、透き通った色の中に時折稲妻のようなきらめきがある。
「これもパワーストーンか……?」
今、自分のポケットに入っている赤い石を思い出す。同じ種類のものだろうか?
ふと、空間を満たす静かな声が響いた。
「私のものを踏むとは、見上げた根性だな」
一瞬何処からの声かわからず、あわてて周りを見る。目線を上げたところで、自分の立つ踊り場の半階上に、腕を組んで仁王立ちする女子の姿を見つける。なぜ気づかなかったのか、という威圧感を背負った人物に、少しだけ光太の声がひきつった。
「ひ、姫崎さん……」
姫崎日与子は、光太のクラスの風紀委員である。
学校指定のシャツを着ている光太が真面目ならば、日与子は超が三つ付く真面目であった。ショートカットの紙は肩にかかることもなく、前髪はいつもヘアピンできっちりとめている。スカートが膝上であることは絶対になく、光太が見る限りいつでもブレザーを身に着けていた。成績もうわさになるほど優秀で、ある種の近寄り難ささえ感じる人物だ。
光太は、同じクラスである彼女が笑ったところさえ見たことがない。
ぱっちりと大きく印象的な眼で光太を見すえたまま、日与子は早足で階段を下りてくる。目の前にたった日与子が差し出した右手に、光太は慌てて拾った石を乗せた。
「ご、ごめん。気が付かなくて……割れたりはしてないと思うけど」
「この石が踏まれたくらいで割れてたまるか、たわけ」
じろりとにらまれる。この、妙に時代錯誤の口調も、彼女がうわさされる要因のひとつだった。
日与子は石をポケットにしまうと、「ところで」と切り出す。
「その様子だと、職員室に行ったのか?」
「え? う、うん」
「職員室に、野ノ浦生徒会長は居たか」
その言葉に、光太の顔は反射的にひきつった。何故この人物からその名前が、という気分でもあった。
「いや、居なかったけど……生徒会室じゃ?」
「生徒会室にいなかったのだ。まったく、あの生徒会長は……自分で呼び出しておきながら」
続いた台詞にも、やはりくらりとなった。あの生徒会長が、この人を呼び出した?
「すまなかったな、美原」
光太の動揺など知らず、日与子はさっそうと去っていく。姿勢のいい後姿を複雑な気分で見送り、同じ気持ちで先程まで石が落ちていた景色をふりかえる。
窓がようやく光を与えている、小さな踊り場。
その光景が次の日まったく姿をかえることになるとは、もちろん光太は知りもしない。
職員室がある棟は、HR棟よりも古い。HR棟の西にある旧校舎とほぼ同じ年に作られた年代物だが、職員室や事務室の存在があるので、なけなしの管理が続けられ、何とか威厳を保っているようなものだった。
HR棟のクリーム色の壁とちがい、職員室棟はコンクリートの壁面が向き出して、夏場でも人を遠ざける空気をかもし出している。誰もが通りたくない空間、それが職員室棟の階段なのだ。
その階段を、光太はプリント片手に上がっていた。
(先生も今更だよなあ……進路選択って春の話じゃん)
中途半端な担任に再提出を求められたプリントを見ながら、薄暗い階段でため息をつく。踊り場を踏み、手すりに手をかけた時だった。
足の裏に本日二度目の感触。
「ん?」
再び、恐る恐る足を上げる。灰色の床にうすく影を作って居たのは、金に近い黄色の石だった。拾い上げた石を窓にかざしてみると、透き通った色の中に時折稲妻のようなきらめきがある。
「これもパワーストーンか……?」
今、自分のポケットに入っている赤い石を思い出す。同じ種類のものだろうか?
ふと、空間を満たす静かな声が響いた。
「私のものを踏むとは、見上げた根性だな」
一瞬何処からの声かわからず、あわてて周りを見る。目線を上げたところで、自分の立つ踊り場の半階上に、腕を組んで仁王立ちする女子の姿を見つける。なぜ気づかなかったのか、という威圧感を背負った人物に、少しだけ光太の声がひきつった。
「ひ、姫崎さん……」
姫崎日与子は、光太のクラスの風紀委員である。
学校指定のシャツを着ている光太が真面目ならば、日与子は超が三つ付く真面目であった。ショートカットの紙は肩にかかることもなく、前髪はいつもヘアピンできっちりとめている。スカートが膝上であることは絶対になく、光太が見る限りいつでもブレザーを身に着けていた。成績もうわさになるほど優秀で、ある種の近寄り難ささえ感じる人物だ。
光太は、同じクラスである彼女が笑ったところさえ見たことがない。
ぱっちりと大きく印象的な眼で光太を見すえたまま、日与子は早足で階段を下りてくる。目の前にたった日与子が差し出した右手に、光太は慌てて拾った石を乗せた。
「ご、ごめん。気が付かなくて……割れたりはしてないと思うけど」
「この石が踏まれたくらいで割れてたまるか、たわけ」
じろりとにらまれる。この、妙に時代錯誤の口調も、彼女がうわさされる要因のひとつだった。
日与子は石をポケットにしまうと、「ところで」と切り出す。
「その様子だと、職員室に行ったのか?」
「え? う、うん」
「職員室に、野ノ浦生徒会長は居たか」
その言葉に、光太の顔は反射的にひきつった。何故この人物からその名前が、という気分でもあった。
「いや、居なかったけど……生徒会室じゃ?」
「生徒会室にいなかったのだ。まったく、あの生徒会長は……自分で呼び出しておきながら」
続いた台詞にも、やはりくらりとなった。あの生徒会長が、この人を呼び出した?
「すまなかったな、美原」
光太の動揺など知らず、日与子はさっそうと去っていく。姿勢のいい後姿を複雑な気分で見送り、同じ気持ちで先程まで石が落ちていた景色をふりかえる。
窓がようやく光を与えている、小さな踊り場。
その光景が次の日まったく姿をかえることになるとは、もちろん光太は知りもしない。
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