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リレー小説用ブログ
2024/05月

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 その日光太は夢を見た。
 夢の中で目を開いた瞬間、ああ、夢だなこれ、となぜか確信を持つことが出来た。それほど『夢らしい』夢だったのだ。
 夢の中で光太は、学校の職員室棟にいた。暗さから見るに、実際光太が眠っている時間ほどだろうか。つまり深夜だ。しかも光太が立っているのは、今日の昼、光太が日与子とやりとりをかわした踊場である。
「俺、もーちょっと場所選べよなぁ……」
 はぁ、光太は溜息をつく。わざわざ夢に見てまで来たいような場所ではなかった。しかも深夜。
 ぺたぺたと、裸足の足が冷たい床に触れている感覚さえリアルだった。
 その時光太の耳が、何かの音を拾った。
 獰猛な大型犬が、吠える前に威嚇する唸り声のような、けれどそれよりもっと低い音だ。低く、地響きのように脅迫する勢いがある。
「なんだ?」
 思わず呟いて、上を見上げる。――天井を見上げたのは、何となくだった。何となく、そちらから音が聞こえてきたような気がした。
 すると上の階の方で、何かが光った。
「え……」
 丁度光太の立っている真上、上の階の踊場を光源として、稲妻のような光が一瞬走ったのだ。遅れて、ばちん、と、迫力のある静電気のような音。
 気のせいかと思い、目を凝らす。すると再び、深夜の職員室棟の壁を、光が一瞬真っ白く浮かび上がらせた。
 白く浮かび上がった壁に、得体の知れない影が映っていた。
「え」
 巨大な図体の何かだ。人間ではなく、もっと背中を丸めた――犬のような、四足歩行動物のような形。一瞬で形状を想像できるほど、はっきりとその影は浮かび上がった。
 再び、先ほどより大きな音。光太はそれが雷鳴に似ていることに気付いた。
「なんだ……?」
 自分の心拍数が上がってきたのを感じる。しかし光太は、どちらかというと、恐怖ではなく興奮を覚えていた。いやに耳と目が冴えている。踊場から離れようとしないのに、見上げた先の壁を必死で見つめている。
 研ぎ澄まされた光太の神経に、見えない所から鋭すぎる声が響いた。
「今更怯えるか、化け物め!!」
 神経が過敏になった光太にとって、痛いほどの声だった。思わず飛び上がりかける。しかし急激に冷静にもなった。その声を聞いたことがあると、自分の頭が言っていた。
 張りの強い、凛々しい女性の声だった。
 再び閃光。しかし今度は、先ほどよりも弱いものだった。その代わりに連続して瞬いている。先ほどの獣のような唸り声も続いた。身体を打たれ、必死で牙を剥こうとしているような声だった。
(さっきの声、どこかで)
 必死で考える光太の耳に、短い悲鳴が飛び込んだ。
 思わず顔を上げる。上げた先の、三階の廊下。そこに何かがどさりと倒れ込んだ。大きなモノ――人間だ。
 その鮮やかな色に、光太は目を奪われる。何故か人物は、燦々と輝く向日葵のような、鮮やかなイエローの服を身につけていた。倒れた姿勢で、何か長い棒を抱えるようにしている。髪すらも金髪である。
 日本人じゃないのか、安い計算でそう考えた光太に気付くはずもなく、倒れた人物は勢いよく顔を上げた。歯を食いしばり、爛々と光る黄金の目で、先ほどまで自分がいたのだろう上の階を見つめている。
 その顔に、光太の視線は吸い込まれた。

「姫崎さん」

 思わず口が動いていた。

 名を呼ばれた人物が、反射的に光太を見る。そして――金の前髪を額に掛からせ、日与子は酷く驚いた顔をした。
 しかしそれも一瞬だった。何かに気付いたように、日与子が再び上の階を見る。その日与子の姿が、一瞬で暗闇に消えた。
 ――違う。日与子の前に、巨大な闇色のモノが飛び出して来たのである。圧倒的な風を感じ、思わず光太は腕で顔を庇う。
「伏せろ!!」
 日与子の鋭い声が響いた。巨大な闇色の塊は、壁を蹴るようにして真っ直ぐに光太に突っ込んでくる。日与子が持っていた棒を突き出し、しかし右頬を打たれて倒れるのが、光太の視界に入った。
 闇色の塊が光太目がけて突っ込んでくる。

 すべてがスローモーションに見えた。
 最後に赤い光を見た、気がした。



 耳の奥でけたたましいガラスの破裂音が響き、光太は飛び起きた。
 荒い息遣いの中、呆然とする。視界はいつも通りの光太の部屋である。薄暗く、カーテンの向こうには未だ朝が来る気配は無い。
 背中と首筋と額とに冷や汗を感じて、光太は呆然としたまま、無意識に腕を持ち上げて額を拭おうとした。その手が拳になっていることに気付く。
 手を開いたそこには、朝拾った赤い石があった。しかし鉱物であるはずのそれは、光太の体温より高いであろう微熱を放っている。暗闇の中、メラメラと燃えさかる炎のように、石が光っている気がした。
 光太は何故自分がそれを握っているのか、さっぱり検討がつかなかった。







「なんだよ光太、酷い顔してんな」
「うるさい」
 結局深夜に目が覚めたあと、一睡も出来なかった光太は、新鮮な隈を目の下に抱えて登校することになった。下駄箱で話しかけてきた親友に突っぱねるように返し、黙々と靴を脱ぎ、黙々と上靴に履き替える。
(昨日、なんて夢見たんだ……よりによって姫崎さんが金髪とか)
 本日見た夢を反芻した後、光太が出した目下の感想がそれである。あんな超が三つ付く真面目な風紀委員が、深夜の学校で、あんな鮮やかな服で、あんな派手な頭でいるはずがない。
 ましてそんな格好の彼女が、得体の知れない何かと戦っていたかもしれないなど、そんなはずはない。
「そういや聞いたかよ、光太」
 酷い顔の光太を全く気遣うことなく、満尋が言う。無視しようと決め、光太は満尋に背中を向けた。
「またガラス、割られてたらしいぜ」
 ――光太は再び、忙しくも振り向くことになる。じっとりと酷い目で親友を見、「もしかして」と、おそるおそる尋ねた。
「職員室棟か」
「おう」
「二階の……踊場なのか?」
「なんだ、光太知ってたのかよ」
「いや……」
 当たっていなければ、どれほどよかったか。
「しかもなんか今回、今までにましてやり方が強烈でさー。窓の桟も枠も吹っ飛んでたらしいぜ。なんか、超巨大な何かがすんげー勢いで窓の外に飛んでったみたいに」
 親友の無駄知識に、光太はさらにげんなりとする。


(いや、でもやっぱ偶然だろ……夢だって、夢)
 教室への階段を上りつつ、光太は必死で自分に言い聞かせていた。
 あんな非現実的なこと、例えどんなにリアルであったとしても、夢でしかないのだ。
 教室に入り、自分の席に座る。友人と適当な談笑をする。
 そんないつも通りのHR前の教室に、小さく悲鳴が上がった。
「姫崎さん、どうしたのそれ!」
 女子生徒の大袈裟な声に、なんだなんだと注目が集まる。
 丁度教室の入り口で、姫崎日与子が珍しく苦笑していた。
「階段から落ちて、ぶつけてしまったんだ。鍛錬が足りんな」
 友人に心配される彼女の右頬には、大きすぎるガーゼが貼ってあった。
 ざわつく友人達の言葉が、さっぱり耳に入らない。
 呆然と彼女を見る光太と、当の本人である日与子。
 一瞬目が合った時、光太は何かを確信してしまったのだ。

 姫崎日与子の目は、氷のように冷たかった。
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