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リレー小説用ブログ
2024/05月

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 英語の授業中、光太は今までに無いほどぴんと背を張り、真っ直ぐに黒板を見て授業を受けていた。しかし、机の上にあるノートはもとから予習していないためもあるが、黒板の板書すらも書かれておらず真っ白だった。
 その原因は、隣の席に座る日与子のせいであった。
 光太と同様かそれ以上に背筋よく席につき、板書をメモしている。机の上のノートはすでに予習されており、細かな、それでも読みやすい字で英文が記されている。教科書にもラインを引きながらメモを取り、ノートには教師の言ったことをメモした付箋を貼っていた。『一流大学合格者のノート』と言われても疑えないほど、綺麗なノートである。
 しかし、そんな授業に集中している日与子の無言の圧力はずっと光太に向けられていた。授業中、光太は何度か日与子の方を向いたが、視線が合うはずもない。超がいくつ付いても足りないくらい真面目な風紀委員の彼女が、授業中に余所見をすることなどありえないこと。それでも、何故か光太は日与子に見つめられて――否、睨まれているような気がしてならなかったのだ。
 俺、何かしたか……?
 白紙のノートをとんとんとシャーペンで叩きながら光太は本気で悩み始める。
 確かに、昨日、日与子の大切そうなものを踏んでしまった。しかしそれは悪意があって踏んだわけでもなく、そしてちゃんと謝罪もしたはずだ。それ以外に何かあるとしたら、
「……夢」
 小さく、教師の声でかき消されそうな声で光太は呟いた。そのとき、日与子のノートを取っていた手が止まる。それと同時に、授業終了を告げるチャイムが鳴った。
 本日最後の授業、ということで授業終了と同時に教室が騒がしくなる。開放感に浸る室内から、光太は鋭い視線を感じた。その視線の先には、日与子。
「姫崎、さん?」
「みは」
「美原光太はおるかの?」
 日与子が口を開きかけると、突然教室の入り口から声が上がった。そこに居たのは、光太の見知らぬ男子生徒。
「あ、はい」
「おお、おったか。ちょっとこっち」
 へらりと笑うその男子生徒は、光太に向かって手招きをした。光太は呼ばれるがままに、男子生徒のもとへと向かった。入り口へと向かう光太の背中を、日与子は眉間に皺を寄せて見つめた。
「えっと……なんですか?」
「うちの会長が呼んでおってな。ちょっと来てもらいたいんじゃが、時間は大丈夫か?」
 独特な喋り方をする男子生徒の口から出てきた『会長』という言葉に、光太は顔を引きつらせた。
「あの……生徒会の、人ですか」
「おお。副会長の羽場庚じゃ」
 男子生徒、庚は目を細めて微笑む。親しげな庚の笑顔とは対照的に、光太の表情は暗いものだった。
「とりあえず詳しい話は会長から聞いたほうが早いからのう、来てもらおうか」
「ああ……はい……」
 庚に連れて行かれる光太の足取りは、やけに重いものだった。


 生徒会室、と書かれたプレートの下がるその部屋の扉の前に立った光太は、大きく息を吐き出した。
「じゃあ、わしは別件があるからあとは一人でよろしくの」
 と、庚に爽やかに言われてしまった光太は、扉の前で立ち尽くしていた。扉に手をかけようとして、ためらいで手が止まる。どうしたものか、そう思ったときだった。
「来たならさっさと入りなさいよ」
 突然扉が開かれ、そこから光太の目の前に顔が現れた。茶髪の、パーマがかった柔らかな髪。凛々しく、そしてどこか妖艶な瞳。目と鼻の先の距離から現れた人物に光太は驚きの表情を浮かべた。
「ま、いか……」
「あら、久しぶりに名前を呼んでくれたわね。よくできました、光太?」
 口の端を上げて、生徒会長である舞華は笑った。光太は再び、大きく息を吐き出した。
「で、何の用だよ。また生徒会の雑用手伝わせる気か?」
「あら、あたしがそんな雑用でとっても大切な幼馴染を呼んだことがあるかしら?」
「いつものことじゃねぇかよ……」
 光太は小さく愚痴ったが、そんな愚痴は無かったものというように舞華は光太に背を向けて生徒会室の奥に入る。光太は呆れながら、扉を閉めて舞華に続いた。
「あんた、部活入ってないわね」
「は? 何だよ、急に」
「部活に入ってないわよね。まさか、あんた松田にそそのかされて卓球部入ったとか言うわけないでしょ?」
 むしろ、言わせないという言い方に光太はガクリと肩を落とした。
「そそのかすって……。別に、今も部活は入ってないけど」
「学生なのに部活もしてないで、一体何が青春かしらね」
 はん、と笑いながら舞華が光太に言う。どこかの誰かさんが生徒会の雑用を急に入れてくるからうかつに部活ができない、なんて幼馴染に言えるはずのない光太は、文句をため息として吐き出した。
「ならあんた、部長する気はない?」
「は?」
 何か重要な主語が抜けている問いかけに、光太は意味がわからず声を上げた。
「意味がわからん」
「部長、する気はないか。あたしはそう尋ねたんだけど、意味通じてる?」
「いや、何の部長かわからないのに、するかどうかって……意味わかんねぇんだけど」
「じゃあ、あんたは目の前でバケモノに襲われている女の子がいたらどうする?」
 再び、唐突な問い。しかしその問いに対しては、ある光景を思い出していた。
 稲妻と女性の声。金髪が揺れ、稲妻が走り、闇色の獣がこちらを向いている。叫び声、唸り声、それから――泣き声。
「……助ける」
 気づいたら、光太はそう答えていた。
 一瞬、その答えが自分の口から発されたものと気づかなかった光太は、ぱちぱちと瞬きをして「え?」と素っ頓狂な声を上げた。そんな光太に、舞華はにやりと何かを確信したような笑みを浮かべた。
「帰っていいわよ」
「は?」
「だから、帰っていいって言ってあげてんでしょ? それとも、帰れって言われたいのかしらドM」
「誰がドMだ! あー、そうかよ、だったら帰ってやるよ!」
 何故か無性に腹が立った光太は、乱暴に扉を開けて生徒会室を出た。開きっぱなしの扉から見える光太の足取りは、先ほどまでと違ってずんずんと大きなものだった。
「短気は損気。婚期を逃すわよー、光太」
 舞華は、楽しそうに光太の背中に向かって言い放った。


 目の前でバケモノに襲われている女の子がいたら助けるだろ、フツー。
 光太は家に帰ってからずっとそのことを頭の中で舞華の問いに対する答えについてぐるぐる、ぐるぐると考えていた。間違った回答はしていないはず、と思いながらも光太は自分の回答を思い出す。

 目の前でバケモノに襲われている女の子がいたら、どうする?
 助ける。

「……あいつ、何が可笑しかったんだ?」
 ベッドに倒れこみながら、光太は小さくぼやいた。どうして、どうしてと頭を必死で働かせていると意識がぼんやりとし始めた。
 そういえば今日は、ずっと姫崎さんから変な殺気出されてたっけ……、と思い出すと同時に、光太の全身に疲れがのしかかった。まぶたがうとうとと上下し始める。
「無駄に、気を遣った気がする……」
 呟いた瞬間、光太の目の前が真っ黒になった。このまま眠りにつく、と思った。

 が、
「……ん?」
 目の前が、はっきりと明るくなる。強い光が一瞬走ると、視界がクリアになって、見たことのある光景が浮かび上がってきた。
「ここ、学校?」
 首を動かしてあたりを見れば、そこは数時間前まで光太がいた、ホームルームの教室だった。視線を落として自分の服を見れば、寝巻きのジャージのまま。それを見て、光太は自分がどこにいるか把握できた。
「ああ、夢か」
 光太が呟いた、瞬間。
「うあぁっ?!」
 少女の叫び声と、入り口の扉から爆発が起きたような大きな音。同時に、扉から少女が飛び出し、教室の壁に叩きつけられた。
 輝く黄金の髪は埃と血が混じってくすんだ色をしている。顔はぐったりと俯き、服には獣の爪で引っかかれたように破れていた。破れた服の間から見える肌には、赤い血の後が見えた。
「……嘘だろ」
 目の前の光景の意味がわからず、光太は小さく呟いた。
 倒れている少女は髪の色こそ違えど、彼のクラスメイトで風紀委員である、姫崎日与子だった。
「姫崎さん!」
 光太は走り出して、日与子のそばによった。顔をよく見ると、意識はあるようで、小さな唸り声を上げた。
「姫崎さん、しっかり! おい、しっかりしろ!」
「うっ……、おま、え……は」
 ゆっくりと日与子の目が開かれる。ぼんやりとした表情を浮かべる金髪金目の日与子に、光太は安堵した。死んでない、よかった、と光太が思ったと同時に日与子の目が大きく開かれる。
「っ、逃げろ!!」
 日与子の声と同じタイミングで腹に蹴りが入り、光太は床に叩きつけられた。回る視界の中で、光太が見たのは、大きな狼のようなバケモノが、日与子の左肩に噛み付いている姿。それは、噛み付くというよりは食いちぎろうとしているようなものだった。
「ああああああっ!!」
 泣き叫ぶような、日与子の叫び声。抵抗しようとする日与子だったが、力が残っていない。だらだらと、日与子の左肩から血が出る。
「やめろ……」
 目の前の光景が、信じられない光太は小さく零した。日与子が身にまとっている黄色の服も、左肩から流れ出している血の赤い色を吸い始めていた。
「やめろ……、やめろ!!」
 光太はついに大声を上げた。その声に反応したバケモノが、光太のほうを見る。爛々とした銀の瞳は、いい獲物を見つけた、といわんばかりににやりと歪んだ。

 目の前でバケモノに襲われている女の子がいたら、どうする?

 自分の答えを思い出したと同時に、光太は立ち上がり、バケモノに向かって走り出した。
「やめろぉぉぉぉぉ!!」
 光太は叫んでいた。今までこれほど全力で走ったことがない、というぐらい全身に力を込めて、自分を笑うように見つめているバケモノに向かって走った。
 全身が、熱い。まるで、炎のように。その熱さの源は、右手に握られている何か。
 バケモノは大きな口を開け、咆哮を上げる。そして、光太に向かって走り出した。それを見た日与子が左肩を右手で押さえ、光太のほうを見た。
「っ、にげ、ろ……!」
 痛みに耐えながら出す声は、光太には届かない。それでも、日与子は声を上げ続ける。
「逃げろ……逃げろ、にげ……て……!」
 日与子はぎゅっと目を閉じて、祈るように呟いた。
 バケモノが、光太に向かって飛び掛る。
「逃げて!!」
 全身の力を使って日与子が叫んだ。
 そのとき、日与子の視界が赤く染まった。
 教室中に赤い光が溢れ、世界が完全に赤一色のみになった。それからしばらくしてその光はふっと消えた。
 突然の光には動きを止めていたバケモノだったが、あたりを見渡して光太を見つけると、先ほどの勢いと同じまま走り出した。
 しかし、光太の姿は、先ほどまでと違っていた。
 燃え上がる炎のように赤い髪、赤い瞳、赤い服。その姿に、日与子ははっと目を開いていた。
「美原、お前……」
「かかってこいよ、バケモノ!!」
 光太は叫び、右手を前に出す。すると、赤い光が現れて、その中から剣が現れた。ためらいも無く光太は剣を握り、バケモノに向かって走り出した。
「はぁぁぁっ!!」
 自分に飛び掛るバケモノに向かって、剣を振るう。ザッ、と風を切るようなそんな音がして、バケモノは斬られた。
 目の前の光景が信じられない、というように日与子は大きく目を開いてぱちぱちと瞬きをしている。しかし、それ以上に信じられないような顔をしているのは、光太だった。
「……今の、って」
 右手に握られている赤い剣、自分の服、壁に寄りかかってぐったりと座っている日与子をそれぞれみた光太は、ああ、と納得したような声を上げた。
「そっか、夢か」
 呟いたと同時に糸が切れたかのように光太は、倒れた。意識が黒くなってゆく中で、日与子が驚いた顔をして自分に向かって何か叫ぶ姿を、光太は見たような気がした。

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